やませながいもの比較分析 2020年(令和2年)
2020年(平成27年)、八戸工業高等専門学校 マテリアル・バイオ工学コース山本歩准教授が実施した「やませながいもの比較分析」をご紹介します。
レーダーチャートによる比較
比較サンプル
各サンプルの分析結果数値
「青森県産長芋」の分析値を「1」とした場合の各試料との比較
分析方法
1.分析試料(5種類)
・やませながいもネバリスター
・やませながいも
・鳥取県産ねばりっこ
・東北町産ネバリスター
・青森県産長芋 各イモをミキサーで破砕して得たとろろイモを遠心分離(10,000rpm、1時間)し、得られた上清を各種分析に使用。
2.分析項目(6項目)
①水分含量:遠心分離前の重量と遠心分離により回収した上清量から水分含量を算出
②糖度(Brix):屈折糖度計にて測定
③タンパク質濃度:Bradford法により測定(検量線にはウシ血清アルブミンBSAを使用)
④粘度:回転式粘度計(B 型粘度計)にて測定
⑤α-アミラーゼ活性:キッコーマン社製のα-アミラーゼ活性測定キットを用いて測定
⑥β-アミラーゼ活性:Megazyme 社製のβ-アミラーゼ活性測定キットを用いて測定
分析結果①~⑥
① 水分含量比較
遠心分離前のイモ重量と遠心分離により回収した上清量(エキス量)から、イモ1gあたりの水分含量(mL)を算出した分析結果を示す。
分析結果
・やませながいもネバリスターは青森県産長芋に次いで重量当たりの水分含量が多かった。
・青森県産長芋はやませながいもネバリスターと比較し約1.2倍の水分を含み、この差は有意差があった(p>0.05)。
・鳥取県産ねばりっこが最も水分含量が少なく粘性も高かった。
② 糖度(Brix)比較
遠心分離により回収した上清(ナガイモエキス)の糖度を屈折糖度計で測定した分析結果を示す。
分析結果
・やませながいもが最も高い糖度を示し(やませながいもネバリスターの約1.6倍)、次いで鳥取県産ねばりっこ、東北町産ネバリスターの糖度が高かった。
・やませながいもネバリスターと青森県産長芋の間には糖度の明確な差はみられなかった。
③ タンパク質濃度比較
ナガイモエキスに含まれるタンパク質濃度をBradford法により測定した。ウシ血清アルブミン(BSA)を用いて検量線を作成した分析結果を示す。
分析結果
・鳥取県産ねばりっこが最も高いタンパク質含量であった(やませながいもネバリスターの約1.8倍)。
・次いでやませながいもが高く、やませながいもネバリスターの約1.6倍の含量であった。
・青森県産長芋と比較すると、やませながいもネバリスターが約1.4倍高かった(有意差なし)。
④ 粘度比較
回転式粘度計(B型粘度計)でナガイモエキスの粘度を測定した。測定は回転速度30rpm(鳥取県産ねばりっこ1サンプルについては12rpm)、ローター番号No.2を用いて測定し、やませながいもネバリスターの平均粘度を1とし相対粘度として各サンプルの粘度を算出した分析結果を示す。
分析結果
・鳥取県産ねばりっこが最も高い粘度を示し(やませながいもネバリスターの約4.1倍)、次いで東北町産ネバリスター(やませながいもネバリスターの約1.9倍)、やませながいも(やませながいもネバリスターの約1.4倍)であった。
・やませながいもネバリスターは青森県産長芋より約2.1倍の粘性を示し、絶対粘度値では有意差が示された(p<0.05)。
⑤ α-アミラーゼ活性比較
ナガイモエキスのα-アミラーゼ活性をキッコーマン社製の「α-アミラーゼ測定キット(60213)」を用いて測定した。アミラーゼ活性はエキス量当たりの活性とタンパク質量当たりの活性(比活性)の両方を求めた。なお本測定キットではα-アミラーゼ活性は「α-アミラーゼの1Uは1分間にN3G5-β-CNPから1µmolのCNPを遊離する力価」として算出される。分析結果を示す。
分析結果
・やませながいもがエキス量当たりの活性および比活性(タンパク質量当たりの活性)ともに最も高いアミラーゼ活性を示した。
・次いで東北町産ネバリスターが高い活性を示した。
・やませながいもネバリスターと青森県産長芋を比較すると、やませながいもネバリスターがエキス量当たりの活性および比活性ともに高かった。
⑥ β-アミラーゼ活性比較
ナガイモエキスのβ-アミラーゼ活性をメガザイム社製の「β-アミラーゼ測定キット(K-BETA3)」を用いて測定した。アミラーゼ活性はエキス量当たりの活性とタンパク質量当たりの活性(比活性)の両方を求めた。なお本測定キットではβ-アミラーゼ活性は「β-アミラーゼの1Uは1分間にPNPβ-G3から1µmolのp-ニトロフェノールを遊離する力価」として算出される。分析結果を示す。
分析結果
・やませながいもおよび東北町産ネバリスターがエキス量当たりの活性および比活性(タンパク質量当たりの活性)ともに高いアミラーゼ活性を示した。
・次いでやませながいもネバリスターが高い活性を示した。
・やませながいもネバリスターと青森県産長芋を比較すると、やませながいもネバリスターがエキス量当たりの活性および比活性ともに高かった。
総括
やませながいもネバリスターの分析値を1として青森県産長芋の分析値が何倍か算出
上記結果より、やませながいもネバリスターは青森県産長芋と比較し水分含量が少なく、タンパク質濃度、粘度ともに濃いエキスが含まれていると考えられる。ただし、水分含量の差以上にタンパク質濃度および粘度がやませながいもネバリスターにおいて高い結果となっていることから、粘性に関わるタンパク質(dioscorinなど)が豊富に含まれていると考えられる。またエキス中のタンパク質当たりのα-およびβ-アミラーゼ活性(比活性)がともにやませながいもネバリスターが高い結果であった。これはタンパク質中の各アミラーゼ含有量が高い、もしくは各アミラーゼ活性そのものが高い、といった二つの可能性が考えられる。青森県産長芋と比較し水分含量が少なく粘度、アミラーゼ活性が高いやませながいもネバリスターは とろろ等の生食により一層適していると思われる。興味深いことにやませながいもが糖度、タンパク質、濃度、粘度、各アミラーゼ活性ともに青森県産長芋より(やませながいもネバリスターよりも)高い結果が示された。本分析はやませながいもネバリスターの付加価値を見出せるかどうかが主な目的であるが、やませながいもの潜在力が引き出された形となった。比較対象として用いた鳥取県産ねばりっこは粘度が際立って高く、その原因として水分含量が低くタンパク質濃度が高いことが考えられる。一方で各アミラーゼ活性の比活性は高くはなかったことから、ねばりっこに含まれるタンパク質の多くは粘性に関連するものである可能性がある。ネバリスター同士の比較という点では、東北町産ネバリスターが糖度、タンパク質 濃度、粘度、各アミラーゼ活性のいずれにおいても高い分析値を示した。今回行ったエキスによる比較分析と別に、味・食感等の官能試験を行うことでやませながいもネバリスターの魅力を見出せる可能性はある。